2017.05.26本のはなし
傷はぜったい消毒するな
って、なかなかインパクトのあるタイトルです。
著者の夏井睦氏は形成外科の医師で
「創傷・熱傷の湿潤療法」を提唱されている先生。
私が就職した32年前。
傷の治療は「消毒して乾燥させる」が当たり前でした。
手術の縫合部は毎日イソジンで消毒し、ガーゼを新しいものに交換。
褥瘡(床ずれ)の処置も、やはり消毒&乾燥。
潰瘍から壊死を起こして硬くなった組織をハサミで取り除き
消毒して乾燥させていました。
ドライヤーを使うこともありました。
ある一定の年齢以上のみなさま(笑)
子どもの頃、転んで膝をすりむいたら、必ず塗ってもらいましたよね。
どこの家にもあった、懐かしの消毒薬、赤チン。
(水銀化合物なので、日本では1973年に生産中止になったようです)
ところが、体液(浸出液)にはキズを修復する作用があるので
それを取り除いてしまうドライヒーリング(乾燥療法)は、
治癒能力を弱めるということがわかってきました。
そこで登場したのが、ハイドロコロイド素材などの創傷被覆材。
今は、医療現場でもいろいろな種類の被覆材が使われています。
たとえば、私たちにも馴染みのある、キズパワーパッド。
自然治癒力に着目した
「傷をしっかり覆い、体液(浸出液)を保ってキズを治す」
モイストヒーリング(湿潤療法)を行う製品です。
「科学的根拠」にうるさい医療現場ですが
(実習指導者さんに、エビデンスは?な~んて突っ込まれますよね)
なんということでしょう。
「傷は消毒してガーゼを当てる」という治療法は
科学的根拠のない単なる風習に過ぎなかったらしいのです。
「みんながしているからしている」
という、かなりいい加減な理由で
あまり効果のない治療がずっと続けられていたなんて💦
この本には、
夏井医師が、試行錯誤の結果たどり着いた
湿潤療法のいきさつや、詳しい内容のほか
「治療効果がケタ違いに高いのだから、すぐに治療が普及するだろう」
と思っていたら
「消毒廃止」に反発する医師が予想外に多く驚いた話や
根拠はないのにその時代の誰もが信じていることを
「パラダイム」といい
実は、臨床医学はパラダイムだらけなのだ、なぜならば・・・
というような、面白い話がてんこ盛りです。
「へ~、そうなんや」がいっぱいでした。