2017.05.29助産師のはなし

あるお産~その3~

さて、深見先生の宿題です。

「あの時、私はどうすることができたでしょうか?」

結論から言えば、あの時代、あの状況で

「最善を尽くされた」

としか言いようがないと思います。

もし、自分が同じ立場に置かれたら

たった一人で

死産とわかったご夫婦を励ましながら

出産にこぎつけ、母体を救える自信はありません。

 

現在は世界有数の長寿国ですが

日本人の平均寿命が50歳を超えたのは

第二次世界大戦のあとの話です。

そして、それは乳幼児死亡率の低下と一致しています。

 

「高水準の医療環境」を築き上げた日本。

高齢化にともなう国民医療費の増大なども含め

「国民皆保険制度」は問題も抱えていますが

その恩恵を受けられることへの感謝は

忘れずにいたいものです。

 

一方で、長く病院勤務をしていると

「とことんやりきる医療」

に、違和感を覚えることもありました。

生まれる時も、そして亡くなる時も

いらんことをし過ぎるのは

どうも、よろしくないように感じます。

医学の成果は、ありがたく受け取りつつも

必要以上に頼り過ぎてはいけないと思うのです。

 

「簡単・便利・楽」を追い求めた生活は

私たちの意識も大きく変えたようです。

「免疫力の大切さ」が言われますが

ヒトがまっとうに生きていくために欠かせない

運動だったり、食事の見直しだったり

努力や辛抱が必要な、遠回りな方法は面倒くさくて

ついつい安易に、病院や薬に頼ってしまいます。

 

そう、深見先生の問いかけは、もうひとつありました。

「あの時の私のように

 もし、マンパワーもなく、医療器具も使えなくなった時

 果たして、安全に出産できるのでしょうか?」

「東南海地震の被害が心配される紀南地方は

 特に、そのような事態への備えが要るのではないでしょうか」

 

少し前の世代までは、

日々の生活の中で体が鍛えられていましたが

今はそうではありません。

現在の女性は、筋力も体力も落ち

妊娠・出産・子育てに適したからだの方が

どんどん少なくなっています。

結果、育児に支障が出ることも増えてきました。

 

不安定な国際情勢。

いつ起きるかわからない大地震。

このままいつまでも、

今の暮らしが保証されているわけではありません。

 

出産・育児を周りがサポートするのはもちろんですが

これから妊娠・出産をされる方は

「産み育てるのは自分」という決意を持って

 「安産できるようなからだ」

 「体力勝負の育児を乗り切れるからだ」

の獲得を目指して

日々、丁寧に生活することが何より大切だと思います。

それが「自分」と「赤ちゃん」を守ります。

そして、私たち医療従事者は

「医療」に全面的に頼り切るのではなく

 「手術」も「吸引分娩」も出来ない

 「点滴」もなく「モニター」もない

というような状況になった時を想定しながら

自分の五感と知識と技術を総動員して

妊娠・出産の支援ができるように

訓練をしておくことが必要ではないかと思います。

 

「女性が本来持っているはずの力を発揮するために

 産む側も、支援する側も努力を惜しまないこと」

深見先生に宿題を頂いて、私はそう考えました。

 

そして

これから未来を生きてゆく、すべての人に

「生きる力」

「生きる知恵と技術」

を伝えていく大切さを教えて頂きました。

 

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