2019.02.11ゆる日記

『知床 ヒグマ運命の旅』

先日、NHKスペシャル『知床 ヒグマ運命の旅』
再放送を観ました(初回放送は2014年8月)。

世界自然遺産、北海道・知床。
特別保護区に指定されている「ルシャ」は、30頭以上が暮らすヒグマ密集地帯。
日本に唯一残されたヒグマの楽園ような場所です。

そこで取材班が出会ったのが、生後半年の若いオスの兄弟”シロとクロ”と
研究者によって、耳にオレンジ色の標識をつけられた老齢のヒグマ。
”オレンジ”は、30歳を越えていますが、
5歳までに生き残ることができるのは半数に満たないというオスにあって
多くの遺伝子を残しながら君臨している彼は、ヒグマたちの「王者」でした。

その3頭のオスを中心に、4年間にわたってヒグマたちを追跡・記録し続けたのが
『知床 ヒグマ運命の旅』です。
 

海に面して豊かな森が広がり、さらには2本の川が流れ込んでいるルシャの渚は
食料にも恵まれ、ヒグマたちが子育てを営むのに好都合な場所です。

メスがずっと同じ場所にとどまって、出産と子育てを繰り返すのとは対照的に
オスはやがては独り立ちし、楽園を離れ、深い森の中で暮らすようになります。
近親交配による種の危機を避けるための自然のメカニズムです。

力のある成熟した強いオスが、食べ物や暮らしやすい場所を独占する中で
まだ若く力もない”シロとクロ”の兄弟も、いずれは独り立ちし
自分の生きる場所を確保していかなくてはなりません。
それは逃れることのできない自然の「掟」であり「運命」です。
 

撮影を始めてから2年後、ヒグマたちは、深刻な食糧不足に見舞われます。
夏の海水温の異常な上昇によって、エサとなるカラフトマスの遡上が遅れ
生まれたばかりの子グマや母グマなど、弱いものから次々と餓死していきました。
この夏、ルシャのヒグマの1/3にあたる9頭が飢え死にする結果となりました。

そんな中、クロに比べて狩りが上達せず、
なかなか独り立ちが出来ていなかったシロは母グマの”イチコ”とともに
ルシャから15km離れた海岸で生き延びていました。

同じ頃、ひと足早く独り立ちを果たしていたクロも
無事、別の場所で生きているのが確認されました。

 

ルシャの森の「王者」として君臨していたオレンジも
この夏を乗り越えていました。
しかし、かつての王者も年老いて力を失えば、群れの中で下位におかれます。
過酷な自然の中で展開される、ヒグマたちの生存競争。
森の中で食糧を得られなくなったヒグマは追いやられ
エサを求めて、人里近くへと下りざるを得なくなります。

人里近くへとやってくるということは、人だけでなく
ヒグマにとっても大変に危険な状態となることを意味します。
森に追い返す対策は取りますが、それでも再々町に現れるようになると
人に危害を加える恐れがあると判断され
やむなく「駆除」の対象とされてしまうからです。
知床では、毎年20頭ほどが駆除されているそうです。

”オレンジ”は、一度、人里に出没してから森に戻りましたが
再びルシャに姿を見せた彼は、ほかのオスとの争いで大きなケガを負っており
それが、取材班のカメラの前に現れた最後の姿となりました。

 
そして、間もなく、独り立ちしたはずのクロが、羅臼の町中に現れます。
ほかのオスとの容赦ない争いに弾かれてしまったのでしょうか。
追い返されても、複数回にわたって町中に現れるクロは
「人にとって危険なヒグマ」と認識されることになりました。

人里近くに何度も現れるヒグマは危険な個体とみなされ、駆除される運命です。
シロよりも先に独り立ちし、飢餓の厳しい夏も独りで乗り越えたクロ。
しかし、厳しい森での生存競争に敗れたクロは、とうとう駆除され
人里近い海岸で3歳の短い命を終えました。

 

クロが死んでから約2か月後
今度は、故郷のルシャから30キロほど離れた国道そばの里に近い海岸で
シロが1頭だけでいるのが発見されます。

独り立ちしたものの、クロと同様に森に居場所を見つけられなかったのでしょう。
その姿はやせ衰えていました。

海岸からなかなか離れようとせず、ずっと砂を掘り返し続けるシロ。
その姿を見ていた、ヒグマたちの観察を続けている団体の男性は
「生まれ育ったルシャの海岸を思い出しているかのようだった」と言います。

なかなか立ち去らないシロは、声や花火などで威嚇され追い払われます。
その時は姿を消したシロでしたが、その後、十数回、人里近くに姿を現しました。
そして、クロに引き続き、ついにシロも駆除されたのでした。
 

ヒグマたちの命を奪うことなく共存することを目指しながらも
きれいごとでは済まない現実に、苦渋の表情を浮かべる地元の男性。
 

ほとんどの生き物にとって、食糧を確保することが生きることそのもの。
クロもシロも、ただ今日を生き延びるためだけに、森を離れざるを得なかった。
食べたい時に食べたいものを好きなだけ食べられる私たちは
ヒトの歴史の中でも、ごく限られた恵まれた場所と時代に生きていることを
いつも心に留めておく必要があると感じます。
 
番組は、兄弟の母グマ”イチコ”が
春に生まれた子グマを連れて歩いているところで終わります。
 

個体として、種として命を繋ぐことの厳しさとともに
ヒトが野生動物の生息域に進出することで引き起こされる軋轢や
ヒトの生活を快適にするための活動で引き起こされるさまざまな環境悪化など
いろいろな事を考えさせられた番組でした。

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